うみがめ波瀾万丈・少年編��
東京から釧路へ(2006.10.16)
父が、自分の生まれる前は九州・宮崎や北海道・千歳に住んでいた、ということは何となく聞かされてはいました。しかし、自分もその父の仕事の都合で東京からよそへ引っ越すことになるとは、幼少期の私には想像もつきませんでした。 無理もありません。旧運輸省航空局の場合は、通常２〜３年で転勤というのが通り相場でしたから。
いかに父が、子供の小さい間は転勤を避けてきたかがわかります。
しかし、東京転勤から13年が経過した1973（Ｓ48）年11月、遂に父に釧路転勤の辞令が下ります。
当初は単身赴任の形で、明けて'74年１月には完全に東京を引き払いました。これはやはり兄と私の学校の問題があってのことでしょう。つまり、２学期途中での転校は避けたかったわけです。
１月12日夜、上野発の夜行列車に乗り込み、９年余りを過ごした東京を後にしました。翌朝５時青森着、青函連絡船から眺める景色は歌にもあるような雪景色、ではありませんでしたが、随分遠いところに来たなあ、という印象はありました。函館から釧路行きの特急に乗り換え、釧路に着いたのはその日の午後６時頃でした。 つまり丸１日かけての移動だったわけです。
飛行機を使えば楽だったろうにって？どっこい、そうはいきません。かつて、生まれて間もない私が、香川から東京まで飛行機で移動できたのも、この時は両親２人分の運賃だけで行けたからです。しかし、釧路行きの時は、大人３人子供１人（当時兄中１、私小３）の運賃がかかり、出費がかさむからと鉄道（と連絡船）を利用せざるを得ませんでした。
釧路に着いて、まず驚いたのは、冬場は路面が凍結していることでした。北海道の冬というと、雪に埋もれたイメージを思い浮かべる方は多いでしょうが、こと釧路に関しては雪よりも氷に閉ざされるイメージが強いのです。そんなこととは知らない私は、東京にいたときと同じ感覚で外を歩いていました。そうしたら、見事に滑りこけました。
こんな感じで、私の釧路生活初日は更けていきました。
シカイシャガニクイ(2006.12.25)
司会者ではなく歯科医者の話です。
クリスマスにご馳走を食べすぎて虫歯でクルシミマスなんて方も多いかもしれませんが、誰だって歯科医には出来ればお世話になりたくないものです。
かく言う私も、歯科には子供の頃からよくお世話になりましたが、いつ行ってもやはり緊張するものです。
最初に歯科にかかったのは確か小学校低学年の頃でした。時期的に、この頃から徐々に永久歯に生え変わりますが、私の場合は乳歯にも虫食いが来ていたと記憶しています。
東京にいた頃から歯科に通っていたのですが、結局完治せず、釧路に引越して後に改めて近所の歯科医院を受診しました。
しかし、２度目の診察が終わった時、担当医から突然「もう来なくていい」と言われてしまいます。
まだ治療も終わっていないのにどうして、と尋ねると、「治療に協力的でないのでうちでは面倒が見切れません」と言われました。
確かに、あまり口を大きく開けようとしなかったのは事実ですが、それだけの理由で診療拒否だなんて、私には信じられませんでした。
結局、別な歯科医院に変わることになり、そこでひとまずの治療を終えました。
治療に協力的でないという理由で診療拒否されたのは、後にも先にもこの時だけでした。
医療職は本来サービス業ですから、どのような患者が来ても誠心誠意尽くすのが本分です。仮に苦痛を伴う検査や治療に非協力的な患者がいたとしても、何とかなだめすかして検査や治療を進めるのが仕事のはずです。
まして、医療側がこのように患者を選別することは、本来あってはなりません。仮に（専門外など）自分には面倒の見切れない患者だと判断したら、しかるべき医療機関を紹介するのが医者としての責任です。
その両面において失格としか言いようのない歯科医が成り立っているという現実がここにありました。
おはなししません(2008.06.04)
（上記記事に関連して）
皆さんはお歯無しにしない為に何を心掛けていますか？
一般的には歯磨きの励行、歯間ブラシの併用などありますが、この歯磨きの仕方も時代と共に変化しています。
私が子供の頃は、丁度「歯の衛生週間」に合わせて「歯磨き体操」なるものをやらされたことがありますが、当時の基本は「ローリング法」でした。つまり、上の歯は上から下に[:↓:]、下の歯は下から上に[:↑:]、丁度歯ブラシをスナップさせるように磨くこと、と言われていたのです。横磨きは無作法の極みとまで言われていました。
しかし、今時ローリング法で磨いている人はいるのでしょうか？
というのも、その後「スクラビング法」が主流となり、私も今はそれで磨いているからです。これは、歯の１本１本に歯ブラシを軽く押し当て、横方向に小刻みに擦る[:->:]方法で、そのほうが時間は掛かっても確実に歯垢を落とせるとのことです。電動歯ブラシの動きも、このスクラビング法が基本です。
そんな風に歯磨きを励行していても、やはりう食（虫歯）は現代人にとっては免れないようです。
しかし、中には驚異的な人もいました。高校に入っても虫歯が一本もなかった人です。
大体１学年に２〜３人の割でしょうか、歯牙検診のあとに発行される保健室通信には、虫歯無しの人が紹介されていました。
あやかりたいと思っても、既に虫歯が出来た後ではどうにもなりません。orz
80歳までに自分の歯を20本残そうという「8020運動」が提唱されてから、今年（2008）は20周年の節目に当たるそうです。
一生自分の歯で噛めるよう、常日頃から心掛けたいものですね。
釧路生活丸３年(2006.10.17)
釧路に来て最初に住んだのは鳥取大通という町でした。この辺りは、その名の通り鳥取県からの移民が多く住んでおり、鳥取の伝統芸能「傘踊り」も形を変えて伝承されています。近くには十条製紙（現・日本製紙）の工場がありました。
この地域の小学校に通っていたのは３年の３学期と４年の１学期だけでした。鳥取大通の借家は父の勤務先（釧路空港）から遠く、更に近い大楽毛（おたのしけ）の官舎がその年の６月末に空いたことから、そこに引越した為です。
大楽毛の町は、近くに本州製紙（現・王子製紙）の工場、そして水産加工場があり、この地域の小学校に通う児童の多くは工場関係者の子供達となっていました。
以前、釧路の冬は氷に閉ざされるイメージがある、と述べましたが、そのせいかこの町はスケートが盛んで、冬季の体育の授業は専らスケートでした。冬祭りも、札幌の雪祭りに対し釧路は氷祭りでした。
スケート靴を履いても最初のうちはおっかなびっくりでしたが、徐々に慣れて来て、釧路を離れる頃にはそんなに速くは滑れなかったものの、何とか形だけは様になっていたようです。
そんな釧路で、私は小学校の後半３年を過ごしました。
ウインタースポーツと私（2009.01.28）
上記記事の通り、私が初めて出会った冬のスポーツはスケートでした。
スケート靴は、当初スピード用を使っていたのですが、やや安定性が悪いのが難点でした。
それもそのはずで、スピード用は速く滑ることを目的としているため、より軽く、かつより空気抵抗を少なくするために、安定性は犠牲にしているのです。エッジ（氷と直接あたる部分）は長くて薄く、それが更に安定性を悪くしています。
子供向けの「スキー・スケート教室」と言う本にも、初心者にはむしろフィギュア用がお奨めと書いてありました。
フィギュア用は、飛んだり跳ねたり回ったりと激しい動きに耐えられるように、耐久性・安定性が重視されているのです。エッジは厚く、その断面は凹んでいるのが特徴です。
回りの子を見ても、男子は大体アイスホッケー用を使っていました。
ホッケーには、速さと激しい動きの両方が求められることから、靴の構造もスピード用とフィギュア用の双方の利点が取り入れられているのです。後に私もホッケー用に買い換えましたが、今思えば最初からホッケー用にしたほうが良かったかもしれません。
函館に住んでいた高１の冬に一度したことがあります。ただし、厳密には「歩くスキー」でしたが。
函館市郊外にある大沼の湖畔に広がるゴルフ場が、冬場は雪に閉ざされるのを利用して、クロスカントリースキー場として営業していたのです。
普通スキー板と靴とは密着しているのですが、クロカン用はかかとの部分が離れるようになっていて、転倒した場合でも骨折のリスクが少ないのが特徴です。
あと函館の小学校に転校した小６の冬に、遠足と称してスキー場に行ったことがあったのですが、この時はミニスキーを持参しました。
ミニスキーとは、文字通りプラスチック製の短いスキー板ですが、冬場の必需品と言うことで、北海道あたりではどこの店にも普通に売られているものです。このときの私も「スキーが出来ない人はミニスキーを持ってくるように」と言われたことで、急遽近所の店に買いに行ったのでした。
口の周りにクマが出た！(2006.10.31)
子供の頃の私は、極端なまでの偏食でした。
自分の気に入ったもの（主に炭水化物や肉類）は良く食べるのに対し、そうでないもの（主に野菜）は全く受け付けない、そんな状況は特に東京に住んでいた小学校低学年まで続いていました。
釧路に転居して間もなく、そうした悪い癖を直すきっかけとなる出来事が起きます。それが表題にも書いた「口の周りのクマ」事件です。
この頃の私の写真を改めて見ると、口の周りが赤くただれていることに気付きます。乾いてざらざらするから口の周りをなめずる、余計クマが目立つ、その悪循環を繰り返していました。皮膚科を受診した際、これは一種の皮膚炎（今でいうアトピーのことか？）と診断され、卵や高脂肪の食品は摂らないよう指導を受け、外用薬も処方されました。しかし、一向に良くなる気配がありません。
その時親からは、今までの極端な偏食が悪影響を及ぼしているに違いない、と言われました。あの頃は単純だった私は、それならと出来るだけ偏食をなくしていこうと努力しました。
その甲斐あってか、中学に進学する前、函館に転居する頃までには大概のものは食べられるようになりました。それと共に、口の周りのクマも不思議と出なくなりました。
確かにクマ事件は、偏食を克服するいいきっかけにはなりましたが、今思えば、クマの原因は食生活だけではなかったような気がします。何故なら、東京にいた頃のほうが偏食がひどかったはずなのに、当時はクマに悩まされる事はなかったからです。
もしかしたら根本原因は、釧路という土地が体質的に合わなかったからでは、と思えてなりません。函館に引っ越した途端出なくなったこともそれを疑わせる一つの要因です。（ここを御覧の釧路の皆さんごめんなさい）
カボチャがトラウマだった母(2006.11.01)
私が小さかった頃、我が家の食卓にカボチャ料理が並んだことはありませんでした。私が初めてカボチャを口にしたのは学校給食のときでした。当時選り好みが激しかったはずの私でも抵抗無く食べる事ができたから、それがどうして我が家の食卓に並ばないのか不思議でした。
やがてその謎が解ける日が来ます。それは釧路に住んでいた頃のことでした。
ご近所から、おすそ分けとしてカボチャを頂いたのですが、母は最初のうち貰うのを嫌がっていました。自分はカボチャが嫌いだから、というのが理由でした。するとそのご近所さんは、「いいから、だまされたと思って食べてみなさいよ。おいしいから」と言って半ば強引にカボチャを置いていきました。 よそに回すわけにもいかず、母は仕方なしに煮物にして食べる事にしました。するとどうでしょう、その人の言った通りほくほくしておいしかったのです。
その時、母は何故今までカボチャ嫌いだったか話してくれました。
母は戦中戦後の食糧難の頃に子供時代を過ごしました。当時は米が十分に行き渡らず、芋やカボチャといったものが主食の代用として出回っていました。他に食べるものがなければ仕方なしに口にするしかありませんが、当時のカボチャは殆んど水分で、はっきり言ってまずかったと言います。そうした幼時体験が母にとって一種のトラウマになり、以来カボチャ嫌いになったとのことです。とはいえ、その時久々に食べたカボチャは、今まで食べたもの以上に美味しかったことから母の認識も変わり、以来我が家の食卓にもカボチャ料理がよく並ぶようになりました。
母のこんな話を聞くにつけても、飽食の時代に生きながら選り好みの激しかった自分が恥ずかしく思えてきます。これも私にとっては偏食を克服するいいきっかけになりました。
ドキッ！新聞だらけの教室 (2007.09.03)
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釧路に来て最初に住んだのは鳥取大通という町でした。この辺りは、その名の通り鳥取県からの移民が多く住んでおり、鳥取の伝統芸能「傘踊り」も形を変えて伝承されています。近くには十条製紙（現・日本製紙）の工場がありました。
その大楽毛の小学校で迎えた４年の２学期の出来事です。この地域の小学校に通っていたのは３年の３学期と４年の１学期だけでした。鳥取大通の借家は父の勤務先（釧路空港）から遠く、更に近い大楽毛（おたのしけ）の官舎がその年の６月末に空いたことから、そこに引越した為です。
初めて足を踏み入れた教室で、クラスの新聞係が製作した壁新聞とは別に、生徒個人が独自に製作した少し小ぶりの壁新聞がいくつか貼られていたのが目を惹きました。
聞けば、その年の６月にある生徒が作ったのが最初で、そこから雨後の竹の子よろしく次々と個人新聞が作られるようになったとのことです。
そこで、クラスでは新聞コンクールを行う事にしたそうです。丁度中２の時、各班毎に新聞製作を競わせたように。
そこへのエントリーは既に締め切られたものの、その後も個人新聞を作ろうと言う動きは止まりませんでした。
全くの個人で作る子もいれば、親しい友人数人で共同製作する子もいました。
実は私もその中の一人だったのです。
元々周囲の影響を受け易い質の私は、「なんだ、これ位なら自分にも作れそうだ」と思っていたのです。
当時転校して間もない私までが参入した事で、クラスの個人新聞熱は一気にヒートアップ、遂には教室じゅうに貼り出された新聞で一種異様な光景を醸し出すようになりました。
そこに、「このままではいけない。収拾がつかなくなる」と危機感を強めた生徒が現れます。
クラスの新聞係のチーフをしていた子でした。
彼は、新聞だらけの状態がクラスの景観を損ねている事を憂慮、ある日自らの独断で、貼られていた個人新聞の大半を廃棄処分にしてしまいました。
担任教師からは「いくら何でもやりすぎだ」とお咎めを受けましたが、これをきっかけに、個人新聞熱は一気に冷めてしまったようです。
所詮は一過性のブームに過ぎなかったのですね。
ただそんな中でも、私（当初は全くの個人で、後に友人との共同に）の新聞は、最後まで残った３〜４グループの一つとなりました。
やはり始めた以上はとことんまでやり抜くのが筋、と考えての事です。それに、良きライバル（何を隠そう件のチーフが関わる新聞）と互いに刺激しあっていたことも長く続けられた要因だと思います。
みんなブームにはまってる？（2007.09.04）
個人新聞ブームで思い出したのですが、丁度我々が小５の時、ヨーヨーがブームとなったことがありました。
始めのうちは「アメリカンヨーヨー」なる商品が出回り、テレビでも盛んにＣＭを流すなどして普及を図っていたようですが、その時点では今ひとつ盛り上がりに欠けていました。
それが世間の注目を集めるようになったのは、コカコーラのノベリティグッズとして売り出された「ラッセルヨーヨー」の登場辺りからでした。
私の周りでもこの時期、一人最低一個はヨーヨーを持っていたのではないかと思います。勿論私も、ご多分に漏れず買いましたよ。
ただ、元々手先があまり器用ではない私は、他の友達が難無くこなしている高度なテクニックなどマスターできず、その意味では単にブームに乗っただけのところがあったかもしれません。
そういえば、こうした高度なテクニックを子供達の前で披露していた「ヨーヨーチャンピオン」と名乗る謎の外国人も各地に出没していたようですが、私は残念ながら目撃した事がありません。orz
でも友達の中には、実際にチャンピオンに会って来たという人もいたようです。
出会えたのは本当の偶然だったのかもしれませんね。
ただ、こうしたブームは熱しやすく冷めやすいもの、やがてヨーヨーブームも過ぎ去ってしまいます。
すると今度は、何故か男子の間にまであや取りがブームになりました。
それも下火になると今度はメンコ遊び、確か一円玉くらいの大きさのものをおはじきの要領で取り合う遊びでした。（机や床に叩きつけるのではない）
６年に上がる頃になると、「ポケットメイト」というポケットサイズのボードゲームが登場、これも人気商品となりました。
やはり、子供のお小遣い程度で買えたのが最大の魅力だったのでしょう。
今回紹介した遊びを、これは懐かしいと思い出された方も多いことでしょう。
私が出会った偉人伝(2007.10.02)
誰でも子供の頃に偉人伝を読んだ（読まされた？）記憶があることでしょう。
単行本と言う形で読んだ事がない人も、国語の教科書で読んだ記憶はあるはずです。
この私もご多分に漏れず、小学生の頃、親が図書館から借りてきた偉人伝を読まされた記憶があります。
こう言うと、「きっとシュバイツァーか野口英世あたりを読んで、それで医師を志したに違いない」と思われそうですが、それは違います。
私が医師を志すようになるのは高校に進学してからのこと、当時の私には今の姿など到底想像できるわけがありません。
親が借りてきたのは、偉人伝にはありがちな人物の本でした。
一人は、発明王トーマス・エジソン。
世間では「彼が発明した数々の品物が我々の生活を豊かにしている」と言われます。
でも本当にそうでしょうか？
例えば彼の発明品のうち、蓄音機は今やＣＤやiPodプレーヤーに取って代わられているし、映画も今やビデオやＤＶＤにとって代わられました。白熱電球さえ蛍光灯に取って代わられてるし。
ただ、後に登場した品々も、エジソンの発明がなかったら存在しなかった訳で、その意味ではやはり偉大な人物といえます。
でも、その幼少期ははっきり言って変わっていました。
人も空を飛べるかもしれないと膨らし粉を飲みすぎたり、雛をかえそうとして鶏卵を三日三晩抱え込んだり。
そして極めつけは、ちょっとでも疑問に思う事があるとどうしてもそれを解決せずにはいられなくなり、そのためにしばしば授業の進行に支障を来し、わずか３か月で小学校を退学させられたエピソードです。
彼の人並み外れた探究心は、義務教育と言う枠には収まりきれなかったのです。
あと、よく誤解されるのが「天才とは１％のひらめきと99％の汗だ」という名言です。
これは努力の尊さを説いた言葉と思われがちですが、実は「１％のひらめきさえあれば99％の汗も苦にならない」と、絶対のひらめきの為にはどんな努力も惜しまないということを言いたかったそうです。
もう一人は、作曲家フランツ・シューベルト。
彼は31年余りの短い生涯の間に、1000近くの作品を手掛けたと言われています。
13歳で作曲を始めたにしては、やたら作品数が多いように感じますが、それは次から次に曲想がひらめき、一つ作品が仕上がるとまた次を始めたからに他なりません。時には、レストランで料理を待っている間に曲想がひらめき、手近にあったメニューの裏に譜面を書いたということもありました。
しかし、ここで疑問が生じます。
それだけ次々に曲想がひらめくのなら、どうして「未完成交響曲」のように作曲を途中止めにした作品が出てくるのでしょう？
これには諸説ありますが、最も有力なのは「シューベルトは、第２楽章までのままでも十分に芸術的であると判断し、それ以上のつけたしは蛇足に過ぎないと考えた」とする説です。
つまり彼は、４楽章まであって初めて交響曲として完成するという既成概念に疑問を抱いていたのです。
それを裏付ける話としてこんなエピソードがあります。
シューベルトは1827年にグラーツを訪ねているのですが、この時に「未完成交響曲」の総譜を現地に住む友人に預け、これが演奏会での発表に耐えられる作品かどうか、オーケストラに交渉しようとしました。しかしこの友人がかなりのずぼら屋で、大事な総譜を紛失してしまい、ずっとそのままになっていました。
発見されたのは、彼の死（1828）から37年経った1865年のことでした。
つまりこのずぼら屋のお陰で、シューベルトはその後気が変わって書きかけの第３楽章を完成させずに済んだ、ともいえます。