うみがめ波瀾万丈・成年編��
うみがめ実習記・解剖(2007.10.29)
医学生にとって避けて通れない関門、それが実習です。その実習に関する話がしばらく続きます。 皆さんにとってはもしかしたら興味のない話かもしれませんが、しばらくお付き合いください。
１回目は、医学生にとって最初の関門である解剖学実習です。
一口に解剖といっても色々あります。
人体の仕組みを系統的に学ぶ系統解剖、病院で死亡した人について、その死因を明らかにし、治療効果を判定する目的の病理解剖、事件・事故による死体について、その死因を特定し、犯罪捜査の一助とする司法解剖、大きく分ければこの３つです。
このうち病理解剖は病理学教室、司法解剖は法医学教室の管轄で、所謂解剖実習（系統解剖）とは異なります。
実習はまず骨学といって、骨の標本を見ながらそれをスケッチするというところから始まります。
それが終わると、実際の人体解剖ですが、実は教養課程で皆動物の解剖を経験しています。それもありがちなカエルではなく、人間と同じ哺乳類であるラットを用いていました。その点、さすがは医学部だと思いました。
とはいえ動物と違って、やはり人体を解剖するのは結構肉体を酷使します。下手をすれば自分の身長よりも大きな人が当たることもあります。それに、遺体は腐敗を防ぐ為にホルマリン漬けにされており、その臭いもきついものがあります。だから連日午後１時頃から実習を始め、終わるのは日付が変わる頃なんてざらでした。
更に、看護学校やリハビリ学院、盲学校の生徒さんが時に見学に来ることもあり、彼等に説明をするうちに時間がとくとくと過ぎていく事もしばしばでした。
こうした解剖実習も、勿論献体という形で協力して下さった皆さんの無償の愛情があってこそ、だから実習の始めと終わりには、感謝の意をこめて黙祷を捧げることになっています。例年10月頃には「解剖体慰霊祭」も行われています。
一時期は、私の親も献体しようかと考えたのですが、諸般の事情によりそれは断念したとのことです。
前述の病理解剖も家族の承諾なしには出来ませんし、捜査令状によって半強制的になされる司法解剖も、行う際には遺族感情に最大限配慮する必要があります。
ただ、やはり長い時間御遺体と向き合うのも、いずれ心身ともに疲れてきます。大体２年次の10月から始めて、終わるのが翌年の１月頃、最後のほうになると日々のノルマをこなすのが精一杯になってきます。
系統解剖が終わると今度は脳実習、これも実際の脳を使うのですが、人間の脳は豆腐のように軟らかいものだと、小学校低学年の時の先生が話しておられたのを思い出し、全くその通りだと実感しました。
実習も大詰めに近付くと、口頭試問が待ち受けており、その対策にも大わらわでした。私はここでも、生来の口下手が災いしてか、常に苦戦を強いられていました。
それでも系統解剖（第一解剖学教室担当）は何とかクリアできましたが、より厳しい神経解剖（第二解剖学教室担当）ではクリアできず、夏休みの補習への参加を余儀なくされたのでした。
うみがめ実習記・組織病理(2007.10.30)
マクロ（肉眼）レベルの解剖に続いては、ミクロレベルの解剖、つまり組織学の実習になります。
３年次の４月から７月頃まで続くこの実習は、人体組織の顕微鏡標本を観ながら、それをスケッチするというひたすら地味な作業です。だから、肉眼解剖のような肉体労働と違って、目を酷使する労働と言えます。
これも肉眼解剖と違い、その日のノルマが前もって示されるから、夜遅くまで居残る人は少なかったようです。肉眼解剖の時は、一応のノルマは与えられるものの、その通りに進む人など皆無でした。
同じようなことを繰り返すのが、４年次の９月から12月にかけての病理学実習です。
こちらでは、特定の疾患における組織像を示した顕微鏡標本が示されます。例えば同じ肝臓でも、慢性肝炎→肝硬変→肝癌と進行する様が別々の標本で示されるのです。
肝硬変の時の結節状変化は肉眼でも確認できますが、病理組織でもそうした変化を認めていて、結節は表面的な変化だけではないことが分かります。
また癌細胞は、正常細胞とはやはり相が違うことも実際に確認できました。
スケッチについて、絵心のない私にはやはり苦手分野でした。
大抵３段階評価のＣがつき、たまにＡ判定が出ても、それはお情けが入った結果でした。
実習の最終日には、まとめテストが行われました。
病理学の場合は、未知の標本を観てそれが何の疾患の組織像であるかを答えるのです。
組織学の場合はそんな単純なものではなく、ある特定の臓器の組織像について問う筆記試験だったと記憶しています。
組織学でも、この実習試験に通らなかった人には夏休みの補習が待っていますが、幸い私はこちらの補習は免れました。
ただ中には、神経解剖と組織学の両方で補習を受けた人もおり、かなりきつかったと話していました。
うみがめ実習記・社会医学(2007.10.31)
社会医学とは、（公衆）衛生学・寄生虫学・法医学を総称したものです。
実習はそれぞれ、寄生虫学・衛生学は３年次の10〜11月、公衆衛生は４年次の（主として）４月から７月、法医学は同じく１月頃に行われます。
公衆衛生実習は、「こんなテーマでやります」という発案者が10人ほど出てきて、他の学生はそのうちの一人に付いて実習するという形で進められます。
私が加わった班は「振動病の疫学調査」というテーマでした。
振動病または白蝋（はくろう）病とは、林業関係者が用いるチェーンソーや道路工事などで用いる削岩機を使う人に多い疾患で、持続的に振動が加わることによって血管運動神経の働きが狂い、血管攣縮（れんしゅく）が起こって、手指が蝋のように白くなる・冷える・こわばるといったレイノー現象が現れます。
高知県はその土地の80％が山林で、その為に林業従事者も多いのです。そんな高知で、古くから振動病と向き合ってきた医師がいると聞き、早速彼が勤める病院で調査を開始しました。
すると、振動病患者はむしろ鉱工業や土木作業に従事している人に多いという意外な事実がわかりました。産業構造の変化で、結果的に林業従事者よりも多くなったのです。
フィールドワークというよりも、調べたデータを大学に持ち帰って分析するという地道な作業でしたが、達成感はありました。
寄生虫といえば、これは他の班が調べた事ですが、児童公園には付きものの砂場、子供が遊ぶためのものだから衛生管理はきちんとしなければいけないのですが、実際には犬や猫の糞便で汚染されていて、各種細菌や寄生虫にとって絶好の繁殖場所となっているそうです。
犯罪捜査の決め手としても重要な血液型ですが、試薬の抗Ａ血清と抗Ｂ血清とを用いて、採取した赤血球と反応させて凝集の有無により判定する方法（表検査）と、血液の血清を用いて判定する方法（裏検査）とを行い、両者が一致した時に確定されます。
これによって、今まで血液型不明と答えていた学生がいなくなる程の威力を持つ検査ですが、そもそも自分の血液型が分かったからといって、それで人生が変わるわけではありません。
大学時代、学生の住所録には、現住所や帰省先のほか、血液型を書く欄がありましたが、これは輸血用の血液が緊急に必要となった時に連絡をまわしやすくするためのものでした。
実際、日本や韓国・中国などの東アジア諸国以外の国では、血液型が人々の話題に上ることすらありません。「そんなものは医者が知っていればよい」というわけです。血液型性格診断も全く根拠のないでたらめだという人もいます。
これに対し、私のある友人はこんな事を言って反論していました。
「血液型を決定する遺伝子と、性格を決定する遺伝子との間に、何がしかの相関関係があってもおかしくない。だから、血液型性格診断はあながちナンセンスとはいえない」
なるほど。
でもＡＢＯ式は、何百種類とある血液型分類の一つに過ぎず、それらの組み合わせを全て考慮に入れていたら、そもそも「Ａ型はこういう性格だ」と断定する事自体無理があるように感じるのは私だけでしょうか？
うみがめ実習記・ポリクリ(2007.11.01)
医科学・生理学・薬理学など、前述以外の基礎医学系各科にも勿論実習はあるのですが、ここでは省きます。
さて、５年１学期末のバリア試験（後述）に首尾よく通ると、いよいよポリクリ（ニック）と呼ばれる臨床実習の始まりです。
ポリクリとは直訳すれば「総合診療科」、つまり臨床実習では内科・外科・産婦人科・小児科などの各診療科目を一通り回るところからそう呼ばれるようになったのでしょう。
約１年かけて、大学病院及び協力医療機関である県立中央病院（当時）の各診療科、そしてこれも協力医療機関の精神科の病院を回るのですが、この頃になると、普段服装には無頓着な学生も、こざっぱりとした格好になり、白衣を身に纏ったその姿は、ちょっと見ただけでは年齢的に近い研修医とさして変わり映えしなくなります。
しかし、この段階ではまだ医師の卵に過ぎません。
卵（学生）とヒヨコ（研修医）の違いはどこか、実はよく見ていると分かります。
卵は医療行為ができない
患者さんに採血や注射の為に針をさすのは医療行為と見なされます。従って、卵にはそれができません。手術の時も、ヒヨコは助手として鈎持ちを手伝わされることがありますが、卵は単なる見学者でしかありません。
卵の病歴聴取は的を射ない
内科や精神科では、時に卵に病歴を聴取させることがあるのですが、病歴とは直接関係のない世間話を延々聴かされたり、また県外出身者は患者の話す方言が理解できず、例えば高知の言葉でいう「のうが悪い」を「認知症」と記録したりします。
ここでいう「のう」とは脳ではなく能のこと、つまり「体具合が悪い」という意味です。
卵はやたら成書に頼りたがる
ヒヨコは「研修医マニュアル」などのコンパクトにまとめられた本を白衣のポケットに忍ばせることが多いのですが、卵はそれが出来ずに、分厚い成書を診察室に持ち込んでしまいがちです。
ヒヨコ、あるいはその上の指導医にやたら質問をぶつけたがるのも卵の特徴です。
教授からの問いかけにたまに頓珍漢な解答をして、教授の逆鱗に触れてしまうのも大概卵です。
産科を回っている時に、運良く出産に立ち会う事も出来ました。大学病院では所謂ハイリスク妊娠を扱う事が多く、従って出産に立ち会える機会は少ないのです。県立病院は通常分娩も多いことからまだ立ち会える機会も多いのですが、それでも結局出産に立ち会うことなく実習を終えた学生もいます。
ポリクリも終わりに近付くと、各科で入局説明会が行われます。
多くの場合、始めは教室で所謂説明が行われるのですが、それに続いて街に繰り出します。学生にとってはただ飯・ただ酒にありつけるまたとない機会という訳で、その科に入局する意志のない人もちゃっかり参加しているのが実態です。
医局側もそれを見越してか、ある科などはわざわざ「ポリクリの打ち上げを兼ねて」と称してビアガーデンを借り切って行う所もあるくらいです。
キングコブラ（2009.02.06）
それは、臨床実習も終わろうとしていたある日のことでした。
私達の班が実習の最後に回ったのは泌尿器科でした。
その科の実習の最終日でしたか、その日の夜に教授が私達学生を市内の飲食店に招待したのでした。打ち上げを兼ねてのことでしょう。
宴もたけなわになった頃、教授はおもむろに、手近にあったおしぼりであるものを作っていました。
何かと思って見ていたら、やがて男性のイチモツの形が出来上がりました。
そしてこう言いました。
「泌尿器科だけに、我々はこうしたものを日常的に見ている。だが女子学生の中には、これを見せるとセクハラと捉え露骨に拒絶反応を示す人もいる。これはある意味医師としてのプロ意識を試すリトマス試験紙だ」
なるほど、決してセクハラ目的ではないと言うわけですね。
そんな教授の姿勢に学生たちも羽目を外し過ぎたか、２次会では少々下に走った替え歌が次々に披露されました。
幸か不幸か、私達の班に女子はおらず、それが更にエスカレートする結果となりました。
その中の一つがアニメ「キングコング」主題歌の替え歌「キングコブラ」でした。
頭をへその上に出し
キングコブラがやってくる
怖くなんかないんだよ
キングコブラは気持ちいい
白人も黒人も黄色人種も
キングコブラでいい気持ち
たたかえキングコブラ
僕らの仲間
言うまでもなく、男性のイチモツをコブラに見立てた替え歌ですが、これが大うけでした。
それで調子に乗ったその学生は更に、人生楽ありゃ苦もあるさ…と「水戸黄門」の主題歌を歌いながらズボンを下げ、お尻を出しました。
「見て肛門」というわけです。
他にも色々と披露されたのですが、とてもここでは書けません。[:汗:]
忘年会の思い出・学生編(2007.12.17)
最近メタボが気になる私は忘年会を避けるようになりました。
行けば当然暴飲暴食をしてしまうと思うからです。
とはいえ、そうした宴会への出席をいつも拒んでいた訳ではありません。
私が忘年会と言うものに初めて参加したのは大学４年の時でした。
その時は学年主催の忘年会で、市内にある大衆酒場の大広間を借り切って行われました。
１学年100人ほどのうち、確か半数程度の学生が参加していました。
翌年もこの学年の忘年会に参加したのですが、実はこの時私は留年しており、本来ならこの学年の忘年会に出席する資格はありませんでした。そこを幹事さんの計らいによって、特別に参加させて頂いたのです。[:ワーイ:]
国試予備校在籍中にもしっかり忘年会がありました。
予備校のあった新宿周辺には大衆酒場も多く、会場選びには事欠きませんでした。
この時の余興として、ビール（だったと思う）の早飲み競争が行われたのですが、こうしたゲームの場合、エントリーした代表選手（男女数名ずつ）だけが盛り上がっても面白くありません。
そこで、他の参加者も楽しめるように、勝者予想が行われました。
前もって配られた出場者リストに予想屋が本命・対抗・穴などの印をつけ、それを元に誰が勝つかを予想するのです。一般参加者は、それを参考にして予想投票し、それが見事的中した人には商品が出る、という趣向でした。
私も一票投じましたが、結局当たりませんでした。
いかにも酒の強そうな人に投じたのですが、実際に勝ったのは一見おとなしそうに見える人でした。
聞けばその人[:女の子:]は秋田大の出身、東京の私立出身が多い中で地方の国立出は貴重で、その競争にエントリーした中では唯一の国立出でした。
なるほど、一見おとなしそうに見えても、酒どころ秋田で鍛えられていた訳ですね。
大学卒業までの道程（2006.11.20）
私のいた大学では、臨床実習に入る前に臨床各科の試験が行われていました。５年の１学期のことです。
内科・外科を筆頭に全部で18科目、学生の間では「バリア試験」と言われたほど厳しいものでした。仮に合格を果たせず（４年の２学期からやり直す形だから文字通り）落第となれば、実際に落とした以外の全科目を翌年受け直す必要があったからです。
どうしても直前になって慌てるところのあった私は、結局ここでも撃沈しました。翌年リベンジは果たせましたが。
臨床実習が終わった６年の２学期からは、卒業試験が始まります。
国家試験の準備と平行してその準備をするべく、６年に進級した辺りから学習グループが次々結成されますが、私は自分と同じようにここまで２度留年している学生で集まり準備を始めました。
やはり「同類相憐れむ」ということです。
友人のほうは無事卒業でき、その後の国試にも一発合格しましたが、当の私は結局卒業を果たせませんでした。
決して手をこまねいていた訳ではなかったのですが、
「所詮卒試も国試も資格試験。合格できて当たり前」
という周囲の何気ない一言が無意識の内にプレッシャーになったのでしょう。気持ちばかりあせり肝心の勉強がはかどらなかったようです。
卒業延期が決まった時は、さすがの私ももうやめてしまいたい、そんなことをふと考えてしまいました。他の皆は卒業が決まったのに…
そんな時、たまたまつけていたラジオからこんな歌が流れてきました。
負けない事 投げ出さない事
逃げ出さない事 信じ抜く事…
「それが大事」という歌でした。
この歌を聴いて再び思い直しました。「やはり卒業を諦めてはいけない」と。
卒試の時は、落とした科目だけ受け直せば良かったから、その意味では気が楽でした。（因みに４科目）
そして、大学入学から丸９年後の平成５年（1993）３月、この私もようやく卒業式を迎える事が出来ました。
国試で酷使 （2006.11.21）
今は多少制度も変わっていますが、私が受験した時の医師国家試験は、一般問題（単純な知識を問う）200問、臨床問題（ある症例を提示して何を疑うか問う）120問が出題され、全体の60％以上正解で合格となっていました。
問題は全て５者択一、だから５分の１の確率で正解出来るのですが、私のように中途半端な知識しかないと、あと二つのところで迷い、結局外れを選んでしまう、却って医学の予備知識のない人が当てずっぽうで答えたほうが正解しやすい、そんなところがあるようです。
そのせいでしょうか、実は私は国試受験でも何度か失敗しています。
入学同期で、当時既に研修医となっていた友人から、「国試なんて無理に一発合格を目指す事はない。君の場合は国試合格３ヵ年計画で行きなさい」と言われた時は、正直こいつ何言ってんだと思いました。
しかし、実際には彼の予言通りになってしまいました。
現役の時は、卒業試験の準備と平行させながらでしたが、結局卒業できたのが精一杯でした。
その年の国試当日（３月中頃）は意外に肌寒く、しかも暖房の効かない試験場だったから初日終了後体調を崩したのが響き、総得点は５割にも満たない惨敗でした。
翌年は、自宅学習で国師の準備をすることにしましたが、これではどうしてもダラダラと机に向かうだけになってしまい、極めて非効率な学習法でした。
指導教官だった教授は、グループ学習を勧めましたが、浪人である自分が現役の学生の中に混じるのも気がひけることから、それもできずじまいでした。
結局この年も合格ラインには程遠く、見かねた親は、国試予備校へ行く事を勧めます。
実は兄もストレートで国試に通らず、予備校のお世話になっていたのです。
これによって生活にメリハリができ、効率よく勉強できるはず、と思いました。
学生時代の私が国試予備校に抱いていたイメージは、主として私立に通っていた落ち武者、それも親の財力だけで医学部に進んだような人が集まるところでしかありませんでした。
そんな環境に、国立出の、親に大した財力のない私が飛び込んだ訳ですが、実際に足を踏み入れてみて、それは偏見に過ぎないとわかりました。
確かに、抱いていたイメージ通りの浪人生もいましたが、それはごく一握りでした。私大出でも真面目な人はいたし、国立出の浪人生も意外に来てました。
つまり国試予備校は、純粋に合格ラインにあと一歩で到達できず、かといって浪人してまで大学の世話にはなりたくない、そんな国試浪人生が集まるところだったのです。
結局私は国試予備校に２年間通い（殆んどの浪人生は１年で卒業）、かつて友人に言われた「国試合格３ヵ年計画」が完結する時期に当たる平成８年（1996）、ようやく国試合格を果たしました。
うみがめ受験記・国家試験 (2007.03.05)
医師国家試験は多くの受験生が１回で合格する中、私は４回めの挑戦でようやく合格を果たしました。（以下「国試で酷使」より引用）
今は多少制度も変わっていますが、私が受験した時の医師国家試験は、一般問題（単純な知識を問う）200問、臨床問題（ある症例を提示して何を疑うか問う）120問が出題され、全体の60％以上正解で合格となっていました。
制度が変わったと言えば、今は２月の中頃に３日間にわたって行われますが（今年は２月17日から19日）、私の受けたときは３月の中頃に行われていました。問題は全て５者択一、だから５分の１の確率で正解出来るのですが、私のように中途半端な知識しかないと、あと二つのところで迷い、結局外れを選んでしまう、却って医学の予備知識のない人が当てずっぽうで答えたほうが正解しやすい、そんなところがあるようです。
最初の時（93年）は、大学単位で願書を取りまとめ、受験会場も大学から一番近い高松でした。現地へは貸切バスを仕立てて乗り込み、宿の手配も大学側がしてくれました。昼の弁当も大学が仕出し業者に依頼して用意してくれました。
これも過去ログに、「その年の国試当日は意外に肌寒く、しかも暖房の効かない試験場だったから初日終了後体調を崩し…」とありますが、それもそのはず、この時は受験会場として高松市内のある公立高校が充てられました。
受験生の席順は、四国４県の各大学が例えば愛媛・香川・徳島・高知といったローテーションで並べられていました。同じ大学同士を前後にしなかったのは、不正行為を未然に防ぐ為です。
翌年は体調を崩した事もあって、国試受験の頃は親の住む川崎にいました。
そこで、願書は大学でまとめて提出してもらったものの、受験地は東京を選びました。
受験会場は世田谷区砧にある日大法学部、自宅のあった生田からは小田急線で直行できる所でした。
その翌年、国試予備校では願書を取りまとめる事はしない為自ら提出、受験会場は世田谷区桜上水にある日大文理学部でした。下北沢で井の頭線、更に明大前で京王線に乗り換えていきました。
自分の周りの受験生は、防衛医大の現役生が殆んどでした。勿論、同じ大学同士が前後に並ばない配慮はなされていました。
兄が同じ会場で受験した時は、周りが東大の現役生で、それだけで威圧されてしまったと言います。
そして遂に合格を果たした年（96年）、この時の受験会場は拓殖大でした。丸の内線の茗荷谷駅が最寄です。
前年もそうでしたが、１日目の試験が終わって後、予備校では初日の問題について解答速報が出され、そこから２日目の試験問題を予想する講義が行われました。
正に、当落線上にある受験生が何とか安全圏に這い上がろうと集まっていたわけです。
中には、「家に帰ってもどうせ暇だから来た」などとうそぶく受験生もいましたが。
大学側が全て手配する現役時代と、自分で用意しなければならない浪人時代を比較すれば、正にファーストクラスとエコノミークラス位の差でしょうか。
合格発表(2008.04.20)
（上記記事に関連して）
2006年４月、私が合格を果たした時の医師国家試験の合格発表がありました。
どのような事情かというと、 今の国試は２月の中頃に３日間にわたって行われますが、私の受けたときは３月の中頃に行われていたのでした。
だから今は３月の末頃の合格発表となります。合格発表と言えば、大概学校の外に掲示板を張り出し、その前で受験生たちが一喜一憂する光景を思い出す方は多いでしょう。
しかし、国家試験の場合は状況が多少異なります。
旧厚生省管轄の場合、厚生省及び地方厚生局のロビーに分厚い冊子が置かれます。
そこに合格者の受験番号と氏名が書かれているのです。
だから、合格発表を見に来た人は、その冊子を閲覧する形になります。
特に私の場合、その前年まではそこに自分の名前がなかったことから、その年の合格発表は感慨も一入だったのが昨日のことのように思い出されます。
発表会場まで遠い人は、大学からの連絡で知るか、あるいは日本医事新報という医学雑誌に掲載される「医師国家試験合格者全氏名」で確認するかとなります。
ただ、近年は状況が変わったようです。
厚生労働省などで発表されるのは、受験地および受験番号のみとなっているのです。
これは近年、高校や大学の入試合格者発表が、個人情報保護の観点から受験番号のみとなっているのに歩調を合わせたものと思われます。
しかし、入試の場合は確かに個人的な事柄で片付けられるでしょうが、国試の場合は、特定の職業人として社会に出るためのけじめとして氏名を公表しても構わないように思います。
確かに、「大学別国家試験合格率」の発表は大学間の序列に通じる危険性がありますが、合格者に社会人としての自覚を持たせる為には、どの道その職業で人前に出なければならないことを考えれば、氏名の公表を控える必要はないと思うのですが、どうでしょう？