うみがめクリニック��
医師も人の子(2007.11.15)
よく「神の手を持った医師」という表現を耳にします。
一般の人から見れば、難治性の疾患をいとも簡単に治してしまう様な医師は最早神の領域かもしれませんが、そんな風に呼ばれる医師の側の意識はどうでしょう?
それを端的に言い表した記事をご紹介します。
MRICに出ていた「『神の手』と呼ばないで」と題する記事で、筆者の加納宣康氏は現在、亀田総合病院で主任外科部長をしておられます。
「神の手を持つ医者」という言葉があります。私も、そういう触れ込みでテレビ番組に取り上げられたことがあります。でも私は「神の手」と呼んでもらいたくありません。
私も常々、一方では「神の手」を持つ医師を持ち上げておきながら、一度医療ミスが起こると徹底的に非難するというメディアの姿勢には違和感を覚えていました。謙虚さを忘れたらいけないという自戒の意味もありますが、それ以上にマスコミが作り上げた「神の手」という言葉と医療の現実とがかけ離れているからです。
臨床試験のような特殊なものでない限り、皆さんが受ける手術は、ちゃんとした指導者の下でトレーニングを積んだ平均的医師なら皆できます。腕の良い医師を求めるのは人情として分かりますけれど、マスコミに取り上げられる人でなければダメと思うのは大きな間違いです。多くのメディアは正しい報道をしていると思いますが、中には事実を報じているかすら怪しいこともあります。
「神の手」が独り歩きするのは、目の前の医師よりもっと良い医師、超人がいるはず、と皆さん無意識に考えているからだと思います。それは要するに人間不信のひとつの表現といえます。
医療というのは人間のすることです。人間としての医療者を信じることなしに、良い医療などあり得ません。
またこれも当たり前ですが、医師も人間です。寝る間もなく働けば病気になって当然です。私も心筋梗塞で一命を取り留めたり、脳腫瘍で右耳の聴力を失ったりしています。
しかし現在の日本社会は、医師が超人的に働くことを要求します。世界的に見て人口あたりの医師数や看護師数がとても少なく、責任感を持って患者さんに当たろうとすると超人的にならざるを得ません。
医療従事者数が少なくなる大きな原因は医療費削減です。世界的に見れば日本の医療は安く、しかも医療者の責任感に支えられて質を保ってきました。でも、数年にわたる医療費削減政策によって、破たんし始めています。
私が医師になった当時のように、1人の医師が子供も含めて何科の患者でも診る態勢で良いなら、それで悪い結果が出てもその場に応じて最善を尽くした医療者を訴えないなら、今の医療者数でも、代わる代わる休めるはずです。しかし、人間不信社会ですから、それでは済まないのです。
専門医でなければダメ、ベテランでなければダメというなら、医療費削減政策をただちにやめて、医療者の数も増やす必要があります。
医療費を負担しているのも、元をたどれば皆様です。どちらを選ぶのか、よくお考えください。
加納先生によれば、両者の根っこは同じ「人間不信」にあるとのこと、納得しました。
ご臨終です〜ターミナル・ケア(2007.03.13/2008.5.15)
生命の誕生を演出するのも、その最期を演出するのも、医師にとって大事な仕事の一つです。
私もこの仕事を始めて以来、今までに何人もの患者さんの死を看取って来ました。
ある時は、丁度当直明けの早朝7時過ぎに呼ばれました。90歳を越えるご高齢の患者さんだったのですが、その全身機能が徐々に止まっていくような状態でご家族を呼びました。近くに住む家族が集まった所で状況を話し、完全に止まった所で臨終を告げました。そもそもご家族も、延命治療は望んでいなかったのです。
またある時は、午前9時過ぎに突然の心肺停止状態となり、急いで家族に連絡、到着するまでの間は心臓マッサージを施しました。しかし、マッサージによって辛うじて心臓が動く状態、家族が揃い、もう助からないと判断した時点で臨終を告げました。77歳、終末期癌の方でした。
このように、臨終を告げるタイミングもケースバイケースです。患者本人や家族がどこまでの治療を求めるかによると言っていいでしょう。時には深夜、職員が見回りに来た時には既に心肺停止状態で発見される場合もあります。その場合でも家族には報告しますが、既に手の施しようがないのが正直なところです。
とはいえ入院中の患者さんの場合は、ご家族もある程度いつかはこの時が来ると覚悟していますからいいのですが、時に事件や事故により突然その時が来る場合もあります。
一度検死に立ち会った事があるのですが、朝は元気に家を出た人が夕方には変わり果てた姿になっていた時のご家族のショックはいかばかりなものか、その場にならないとなかなかわかりません。
こんな風に、仕事では何人もの人の最期に立ち会ってきた私ですが、祖父母や父の死に目に会う事は出来ませんでした。
医療従事者ってつくづく因果な商売だな、と思います。
ところで、かつて人の死に場所と言えば、圧倒的に自宅が多かったのですが、1977(S52)年を境に病院がそれを抜きました。
これには、急性期疾患を伴う場合が増えたと言う事情もありますが、実際は老衰死も今は病院で迎えることが多いのです。
これには、本来面倒を見てあげるべき家族が離れて暮らしていたり、一緒に暮らしていてもそれぞれに仕事を抱えていて、老人介護にはなかなか手が回らないという事情があるのです。
ところで、最近になって政府は、しきりに在宅介護の重要性を説いています。
出来れば住み慣れた家で最期を迎えさせたい、という気持ちは誰にもありますが、しかし現実は上述のようにそうもいかないもので、それを杓子定規にみんな在宅へというのはいかがなものでしょう?
そんな、在宅介護の負担を肩代わりし、更には終末期(ターミナル)の世話(ケア)をするのも私達医療従事者の重要な仕事だと思います。
ターミナル・ケアといえば、最近はペットを自宅で看取るケースも多いようです。壊れたおもちゃのように簡単にペットを捨ててしまう人も多い中で、その最期の瞬間までペットに愛情を注ぎ続けるだけでも偉いと思います。
「それが飼い主として当然の義務」と言われればそれまでですが、さもなくば安楽死処分されることを考えれば、ペットはやはり自宅で看取られるのが幸せと言うものです。
うがいの効用(2008.02.22)
一般に風邪の予防のためにはうがいが奨励されるところですが、実はヨード液を薄めてうがいをしても、風邪の予防にはならないことが無作為割付試験で明らかになった、という興味深い報告がありました。
「日経メディカル」の公式サイトに出ていたのですが、以下にその記事をご紹介します。(会員制サイトにつきリンクは貼りません)
京大保健管理センター所長の川村孝氏らは2002年から03年の冬、全国18地域のボランティア387人を「水うがい群」「ヨードうがい群」「うがい介入なし群」の3群に割り付け、2カ月間にわたって、風邪の発症を追跡。発症の有無は、症状のグレードをスコア化することで、客観的に判断した。
ヨード液を使うぐらいなら、水道水でうがいしたほうがましとは意外でしたが、うがいと言う行為が日本固有の文化だと言う事実も驚きでした。結果は、うがい励行の介入をしなかった群と比較して、水うがい群で風邪の発症者が40%減少した(ハザード比0.6)のに対し、ヨードうがい群では有意な減少は見られなかった。
そもそも、うがいという行為自体が有効なのか、以前から疑いの目が向けられていた。ウイルスは感染時、強固に細胞の受容体と結合する。そして30分程度で細胞内に侵入、増殖段階に入るため、いくら帰宅後にうがい液で粘膜表面からウイルスを洗い流したとしても、その効果は限定的だと考えられるからだ。
これについて川村氏は「ハウスダスト由来のプロテアーゼがインフルエンザウイルスの感染を促進するという報告がある。うがいによってウイルスを流し去るのではなく、感染を促進するプロテアーゼを洗い流している可能性がある」と説明する。
一方、水道水で効果がありながら、ヨード液で効果がなくなったことに対しては、ヨード液が粘膜の常在菌叢を破壊したためか、粘膜を構成する細胞が傷害され、水道水と比べて感染が成立しやすくなったのではないかと川村氏は考察している。
今回の研究は被験者に介入内容を知られてしまうため、完全に厳密な研究とまではいえない。これに対し川村氏は「被験者も私たちも、ヨードうがいが一番効くと思っていたのにそうではない結果が出たということから、思い込みによるバイアスは少ないのではないか」と話す。
うがいは歴史をたどると室町時代の文献に記述があるほど古来からの文化で、語源は長良川の「鵜飼」。日本固有の風習で米国や隣の韓国ですら行われていない。そのため、日本人はヨード液が効かないことを驚くが、外国人は水うがいに風邪の予防効果があることの方を衝撃的に受け止めるようだ。「この試験結果から、今後は、風邪予防のためにうがいをしなさいと、日本の文化として自信を持ってアドバイスすることができる」と川村氏は話している。
創傷治癒の為に傷口を密閉するような治療法も近年見直されており、今までの医学の常識を覆す発見は今後も出てきそうです。
当直室という空間 (2008.02.28)
私が現在勤める病院では、平均すれば夜間当直が週一回、週末の日当直が月一回入っています。
ところで、皆さんは当直室がどのような空間か、想像できますか?
病院によって若干構造は異なりますが、おおよそホテルのシングルルームを想像して頂けたらよろしいでしょう。
そこにはベッドがあり、ユニットバスがあり、テレビがあり、クローゼットがあり、冷暖房完備で、場合によっては冷蔵庫やビデオも備わっていたりします。
だから、中から鍵さえかけておけば、当直室の中でどんな格好をしていても外から見られる心配はない訳です。勿論緊急呼び出しには応じなければいけませんが、その場合は「ちょっと待って下さい」と言って着替えれば済みます。
中には畳敷きの上に布団、という所もあります。元は看護師の休憩室だったのを転用した為ですが、この病院の場合、風呂場やトイレは離れた場所にあり、そこに行くには事務当直とどうしても顔を合わせなければいけません。
病院当直室の備品の中には、本来なら私物とすべきものが時として見受けられます。
所謂エロ系の雑誌やビデオですが、やはり一人の夜は何かと寂しいから、そうしたものに頼りたくなるのでしょう。
かく言う私も、好奇心から、それらを眺めたことがあります。(自分から持ち込んだことはありません。念の為)
そう言えば、以前勤めていた病院で、こんな話を聞いたことがあります。
その病院にかつて勤めていたある医師(私が来る前に辞めている)は、当直室の書架に収まりきらないほどのビデオコレクション(勿論エロ系)を持っていて、他の職員にも密かに貸し出すほどだったそうです。
その医師が退職すると同時に、膨大なビデオコレクションも跡形なく引き払われたとのことですが、一体彼はどうやって運びだし、またその後どこに保管したのでしょう?
勿論これは、救急指定されてない、比較的暇な病院のお話、一晩中寝る間もなくスタッフが働いている病院ではそうはいきません。
ヘリコバクター・ピロリ(2008.03.28)
最近良くヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)という名前を耳にしますね。
その名の通り(helico=らせん状の、bacter=細菌、pylorus=幽門)、胃の幽門部(十二指腸に近いほう)に多く繁殖するらせん状の細菌です。
このピロリ菌について、良くまとめられた記事がMRICに出ていました。
国立国際医療センター消化器科の小早川雅男医師による「最近話題のピロリ菌って何?」という記事です。(以下引用)
●ピロリ菌はいつ誰によって発見されたのでしょうか
つまり、ピロリ除菌によって胃癌のリスクを少しでも低くするという発想ですが、これがantibiotics(抗生物質)の発想です。ピロリ菌はオーストラリアのマーシャルとウォレンによって1983年ヒトの胃の中から発見されました。その後、ピロリ菌がヒトの胃に与える様々な影響が解明され、2005年には発見者の二人に、「ピロリ菌とその胃炎・消化性潰瘍疾患における役割」に関する発見を理由にノーベル生理学・医学賞が授与されました。
●ピロリ菌はどこに生息するのでしょうか
ピロリ菌は、主にヒトの胃に生息します。胃の中は胃酸により酸性に保たれていることから、他の細菌は生息することが出来ません。ピロリ菌はウレアーゼという酵素によりアンモニアを作ることで胃酸を中和し胃の組織と粘液の間に住み着いています。日本人の場合、約50%の人にピロリ菌が感染しています。高齢者ほど感染率が高く、若年者での感染率は低い傾向を示します。ピロリ菌は幼少時に口から感染し、成人となってから新たに感染することはほとんどないことから、幼少期の衛生環境がピロリ菌の感染率に影響していると考えられています。通常ピロリ菌が陽性と診断されれば、その人の年齢とほぼ同様の年月ピロリ菌の感染が持続していると考えられます。
●ピロリ菌が感染することで何が起こるのでしょうか
ピロリ菌は胃に感染することによって慢性活動性胃炎と呼ばれる持続性の炎症を引き起こします。この炎症が持続することによって、胃粘膜は次第に萎縮していきます。胃粘膜が萎縮することによって胃酸の分泌は減少します。胃粘膜の萎縮は簡単に言えば胃の老化現象と例えることができるでしょう。胃の老化現象はピロリ菌に感染していない胃にはほとんど起きません。多くの日本人の場合、ピロリ菌に感染すると年齢とともに胃の老化(萎縮)が進行します。老化のスピードは人によって様々ですが、強い炎症が続き、老化現象がより進んだ人では胃癌の発生リスクがより高くなることが判明しています。また、胃の老化(萎縮)が高度に進行すると、ピロリ菌にとっては逆に生息しにくい環境になり、菌数が減少あるいは消失することがあります。このような場合ピロリ菌が陰性と判定されても、実は最も胃癌のリスクが高いと言えることから注意が必要です。日本人の場合、ピロリ菌の感染の有無を厳密に調べると、全くピロリ菌に感染したことのない人に比べて胃癌のリスクは約10倍であることが判明しています。
ピロリ菌は胃癌の他にも、胃・十二指腸潰瘍の原因となることも判明しています。ピロリ菌を除菌することによって、潰瘍の再発が1/10程度になることから、胃・十二指腸潰瘍患者では除菌療法が保険適応で認められています。そのほか、胃のマルトリンパ腫、過形成ポリープ、特発性血小板減少性紫斑病などにおいても除菌療法の高い有効性が示されています。ピロリ菌を除菌した方がいいのでしょうか?
現在、胃・十二指腸潰瘍がある場合、またそのその既往があれば保険適応にて除菌療法を行うことが可能です。しかしながら、ピロリ菌の感染は直接的に胃に症状を引き起こすことはないことから、現時点ではピロリ菌感染のみでは保険適応は認められていません。ピロリ菌が様々な疾患のリスクとなっていることは判明していますが、除菌することによって、これらを予防することは未だ証明されていないからです。
それでは、他の疾患ではどうでしょう。C型慢性肝炎ウイルスは、慢性肝炎を引き起こすことによって肝硬変となり肝癌が発生します。C型慢性肝炎自体は無症状で、ウイルスを排除することによって肝癌の発生を抑制することは証明されていませんが、インターフェロンなどによるウイルス排除の治療は保険で認められています。リスク因子の持続的な暴露という面ではピロリ感染は喫煙にも通じるものがあります。非喫煙者に比べ喫煙者の肺癌のリスクが高いことはよく知られています。喫煙者に、禁煙すると喫煙を続けるのに比べ肺癌のリスクが低下するとは証明されていないから禁煙は勧めないというのは無理があるような気がします。
ピロリ菌を除菌することにおけるデメリットも考えておかなければなりません。ピロリ菌の除菌は、制酸剤と2種類の抗生剤を1週間服用することから、服用中に、下痢、味覚異常などの副作用が約30%の患者に生じます。稀ではありますが、抗生剤によるアレルギー反応や、出血性腸炎などが起こる可能性もあります。また、除菌後には胃酸分泌が増加することから、逆流性食道炎のリスクがやや高まります。
除菌治療の成功率は約80%です。一度除菌に失敗しても別の除菌法を用いることで更に約80%除菌できます。除菌に成功すれば再感染は稀です。もしあなたが、これらのことをよく考え除菌を強く希望するならば、ピロリ菌について精通した医師に相談した上で、現時点においては自費(約7000円)にて除菌治療を行うのがよいでしょう。胃癌の予防が証明されているわけではないので除菌後の定期的検査もお忘れなく。
「でも除菌治療には7千円もかかる。少々お高いんじゃないの?」という方に、もっと安上がりな予防法もお教えしましょう。
発酵食品(ヨーグルト・納豆…)を食べることです。
このことで、人体にとって有益な細菌を増やし、結果的に消化管内の細菌バランスが改善され、病気の予防につながるのです。こうした発想をprobioticsと言います。
抗生物質には副作用や耐性菌が存在することから、いわばその過度の使用を戒めるという目的もあります。
どちらを選ぶかはその人次第、私としては積極的に一方のみをプッシュするようなことは致しません。
日韓血液患者会交流会(2008.05.01)
白血病と言えば、かつては不治の病の代名詞のように言われてきました。
しかし現在では、早期発見・早期治療によって、その生命予後は向上しています。
そんな、白血病に代表される血液疾患の患者さんによる団体「ももの木」の活動について、興味深い記事がMRICに寄稿されたのでご紹介します。
「ももの木」呼びかけ人で、東京大学医科学研究所・探索医療ヒューマンネットワークシステム部門特任助教の田中祐次氏が寄稿した「韓国患者会との交流会を終えて」という記事です。
2008年4月12日、第1回日韓血液患者会交流会が開催されました。
日本側は2000年に私と患者が一緒に設立した血液患者コミュニティももの木、韓国側は、韓国白血病患友会(韓友会)です。
韓友会は、慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬であるグリベックの患者負担を減額してもらうことを目的に7年前に設立さました。当時の韓国では、健康保険の患者本人の負担額は医療費全額の30%でしたが、政府、製薬企業との交渉の結果、政府が本人の負担額を20%に下げ、さらにノバルティスファーマ社より10%分を患者に還元することになりました。その後、政府が患者負担額を10%に引き下げたため、月約30万円の患者負担額が現在では実質ゼロになりました。
現在の韓友会は、スタッフ5人、ボランティア100人、会員4,000人の組織へと成長し、慢性骨髄性白血病だけでなく血液疾患全般の患者・家族が集まる会になっているそうです。薬の減額だけではなく、後述する献血問題や患者・家族の心理サポートなど活動の幅が広がっています。
今回の訪日の目的は、日本の献血システムの調査だそうです。日本ではほとんど行われていない感染症に対する白血球輸注が韓国では年間3,000件ほど行われています。ちなみに、日本でも骨髄移植後の再発に対するドナーリンパ球輸注やEBウイルスによるリンパ増殖性疾患に対する全血輸血という形で白血球が輸注されることはあります。韓国ではG-CSFを投与された血液提供者(ドナー)から採取した白血球を、感染症を発症した白血病患者に投与します。ここで問題になるのは、韓国ではドナーを白血病患者自身およびその家族が探さなければならないことです。韓友会では、このような白血病患者の負担を減らすために、ドナー確保への協力活動を行っています。また、日本をはじめ諸外国を訪問し、献血や白血球輸注の事情を調査し、報告書を政府に提出するそうです。日本で献血ルームの視察などを終え、日本と韓国との献血の違いなどを実感し、特に白血球輸注が行われてないことを知り驚いていました。私自身も韓国の現状をほとんど知らなかったため、韓国の現状に少なからぬ驚きを感じました。
また、ボランティアの中に日本語の通訳をしていた方(2年前に骨髄移植を受けた患者です)がおられ、その方を通じて日本の血液関係の患者会に連絡があり、交流会の依頼がありました。そこで血液患者コミュニティももの木との交流会が企画されました。当日は韓友会4人、NPO血液患者コミュニティももの木20人が交流会に参加しました。自己紹介後は、医療制度や費用の違い、医師とのコミュニケーションの問題、病院の問題など、互いの興味が尽きず会話は途切れることなく続きました。初めての患者会の国際交流は大盛況でした。
また、日韓患者会交流会の前日には、韓友会の方々と私で帝京大学医学部附属病院、都立駒込病院、国立がんセンター中央病院の病院見学を行い、日本の医療現場、特に血液病棟や無菌病棟を視察し、医師や看護師と意見交換しました。国立がんセンター中央病院では、我が国の臨床医の代表的存在ともいえる土屋了介院長が病棟、外来、相談室、調剤部など病院全体を案内してくれました。院長自ら、患者会活動を重視していることを身をもって示されたことに、医療者と患者とのコミュニケーションに問題を感じていた韓友会の方々は、喜びとともに非常に驚いていました。
今回の活動を通じ、韓友会の方々の医療に対する強く真剣な思いがグリベックの患者負担ゼロという結果を生み出し、さらに海外との交流活動につながっていることを実感しました。このような草の根の活動を医療者側も真摯に受け止め、ともに活動することは、今後の日本においても医療界に大きな影響を与えていくことになるでしょう。私もこのような活動を通じて、我が国の医療界に貢献できればと考えています。
ストップ・ジ・インフルエンザ(2008.05.16)
新型インフルエンザに対する警戒感が世界的に強まっています。
ただ、我が国の対応はどうしても後手後手に回りがちです。
こんなことではいけない、と以前紹介した鈴木寛氏がMRICに提言していた記事をご紹介します。
題して、「新型インフルエンザ 今できる対策がもっとあるはずです」
新型インフルエンザの脅威が高まりつつあります。高病原性鳥インフルエンザH5N1による人への感染症が数多く報告されているのです。人から人へ効率よく感染するように変異を生じれば、ほとんどの人が免疫を持たないため、世界的大流行(パンデミック)となってしまいます。有名なスペイン風邪では、国内でも35万人を越える死亡者数を数えたとされています。
なお、タイトルが「ストップ・ザ…」になっていないのは、母音で始まる単語にかかる定冠詞は「ジ」と発音することという文法ルールに則っての事です。日本での対策の現状は、中核対策機関の研究員数がアメリカの10分の1以下、抗ウイルス薬(効果は不明のようですが)の備蓄率も決して高くありません。スイスや他の先進諸国の対策とは、かなり開きがあるようです。
たとえば、鳥型のH5N1から作り、予防効果が期待できるかもしれないプレパンデミックワクチン。スイスでは全国民への事前接種が予定されています。一方、日本政府の備蓄はようやく2種類1千万人分。接種時期も、新型インフルエンザの発生を確認した後です。
平成19年度の補正予算では備蓄費用として40億円が計上されましたが、道路に年間6兆円つぎ込むことを考えれば、たとえ400億円でも多すぎることはないでしょう。接種対象者をどこまで拡大できるか、それによる増加分の予算をどう捻出するか、検討を急がねばなりません。
「スイスのように新型インフルエンザの発生を待たず、十分なインフォームドコンセントの上で希望者に漸次、有料でも接種を開始すべきでは」との提案も受けました。そもそも現在ワクチンは、製造開始までに半年以上必要で、接種後に効果が現れるまで1カ月かかるそうです。
私はこの提案の是非を評価するだけの専門知識を持ち合わせていませんが、いま大切なことは、日本と諸外国のこうした対応の違いについても情報を共有し、議論を深めることです。
新型インフルエンザによる死亡者数は国内だけで数十万人とも推測されており、医療面だけでなく、その社会的影響ははかりしれません。とるべき対策を把握しながら、予算確保が難しいという理由だけで議論しないのは問題です。情報をきちんと公開して、判断を国民に求めるのが政治や行政の役割です。
医師不足解消待ったなし(2008.06.19)
厚生労働大臣の私的懇談会である「安心と希望の医療確保ビジョン」が2008年6月18日、最終報告書をまとめました。
これについて、ロハス・メディカル発行人の川口恭氏が会議の模様を傍聴した記録がMRICに出ていました。(詳細はリンク先参照)
報告書の主な内容は以下の通りです。
�^綮嬪楡�数の増員
�⇔彎恩�修制度の見直し
��女性医師が仕事と育児を両立できる環境の充実
�こ依茣擬�40人に医師1人などの医療法に基づく必要医師数算定法の見直し
�チ躪臈�な診察能力を持った医師の育成支援
�,砲弔い董∪�府では将来の医師過剰を見越して1997年度から医学部の入学定員を削減する方針を定めました。
しかし我が国の医師数はOECD加盟国の中でも最低レベルにあり、近年はむしろ医師不足が各地で叫ばれるようになっています。
政府としても、これは見過ごせないと思ったのでしょう。
とはいえ、これは即効性のある対策とは言えず(医師養成には時間がかかる)、今目の前で起きている医師不足にとっては焼け石に水かもしれません。
それに、医師の絶対数を増やしたところで、彼等が不人気の診療科や僻地医療に従事してくれる保証はどこにもありません。
�△砲弔い董�2004年度に義務化された臨床研修制度では、都市部に研修希望者が集中し、それが医師の偏在を加速させたという弊害が指摘されてきました。そこで、医師不足が深刻な診療科や地域医療に貢献する臨床研修病院を積極的に評価する、としています。
ただこれも、研修医が都市部の病院を希望する根本原因(症例数も多く、高度先進医療を学べる)の解決につながるか、甚だ疑問です。
��について、昨日(18日)のテレビでもやっていましたが、女医さんにとって仕事と家庭の両立は、他の働く女性以上にハードなものがあります。
ただでさえ激務なのに、その上家事・育児となると、いつ壊れてもおかしくありません。それなのに、職場の上司からは「家庭と患者のどっちが大事だ?」と心ない言葉を浴びせられることもあるそうです。
確かに、子育て中の女医には外来新患のみ診察させたり、あるいは昼間のみの勤務にしたりなど、病院側が子育て支援策を策定するのも必要なことでしょう。
しかし根本的な解決策は、医療者・患者双方の意識改革にあるのではないでしょうか?
どうしても我が国では、一旦担当医が決まればその人が休日夜間を問わず診てくれるのが当たり前という考え方を、医療者も患者も無意識のうちにしていたようなところがあります。そうではなくて、欧米並みのチーム医療(医師同士、あるいは他の医療スタッフとの連携)を我が国でも本格導入すべき時ではないかと思います。
医師の代わりはいても、家族の代わりはいないのですから。
漢方治療のすすめ(2008.07.01)

この私と高校、大学とも同じだった人を3人知っています。
その中の一人が今回ご紹介する浅羽宏一氏です。
実はたまたま私が「日経メディカルオンライン」を見ていたところ、彼の名前を発見したのでした。
彼は高校では私の1年後輩、しかし医師としてのキャリアは彼のほうが上です。
1992(H4)年に高知医科大学(現・高知大学)を卒業して、そこの第二内科(内分泌代謝腎臓内科)に入局します。98(H10)年に高知大学大学院を修了(医学博士取得)、第二内科助手(今は助教という)に就任します。その後第二内科学教室助手(文部教官)、高知県立安芸病院内科医長を経て、06(H18)年から高知大学医学部附属病院総合診療部に勤務、現在に至ります。
現在彼は、日常診療に漢方医学を生かした活動をなさっていて、見かけた記事も「日常診療に漢方を使う」という連載記事の初回でした。以下にその記事をご紹介します。
題して「不定愁訴にこそ漢方が効く」(会員制サイト)です。
大学病院の総合診療部には、実に様々な訴えの患者さんが来院します。具合が悪いのに、医療機関をいくつ受診しても検査結果は異常なしという患者さんや、色々と治療を受けているのに症状が改善しないという患者さんが、「最後の頼みの綱」といった気持ちで受診してくるようです。
西洋医学が疾患に対して共通のアプローチをするのに対し、漢方は基本的には患者個人個人によって処方が異なります。だからこそ、その人にあった治療法が選べるという利点があります。それだけに、同じような検査を繰り返したり、専門と思われる診療科に次々と紹介するたらい回しをしないためにも、当科では初診時から漢方治療を行っています。漢方では、西洋医療とは全く異なった視点で患者さんを診察・治療しますので、なかなか診断がつかない患者さんには有効なことがあります。
先日、3カ月前にクルマに乗っていて追突され、頸椎症と診断されて近くの整形外科で治療を受けている64歳の女性が来院しました。この方は、首と肩の痛みが軽減した1カ月ほど前から、鼻の周囲が痛くなり始めました。脳神経外科や耳鼻科での、血液検査やMRI検査などでは異常が認められなかったものの、症状は全く改善しないため、当科を受診しました。
この患者さんには、「曲池(きょくち)」「手三里(てさんり)」「身柱(しんちゅう)」と呼ばれる経穴(つぼ)に対し、円皮鍼による鍼治療を外来で行いました。肩の痛みに対してよく行われる治療です(上図)。鍼治療の約20分後には、症状が3割ほど軽快したと笑顔が見られたため、同じく肩の痛みに対してよく使われる葛根湯を処方しました。
1週間後に再診した時には、時々痛みを感じるが、症状が気にならないことが多くなったということでした。前回と同じ場所に円皮鍼治療を行い、さらに葛根湯を2週間処方しました。
私たちはこのような患者さんに対して、西洋医学的な評価を行った後に、積極的に漢方薬や鍼灸の治療を行うようにしています。腰痛を訴える患者さんに鎮痛薬を処方しても、心下部痛や食欲不振で患者さんの苦痛を増やすことがあります。それよりは、漢方薬や鍼灸治療の方が患者さんには優しいと思います。
これからの医療において、プライマリケアに携わる医師は、漢方エキス剤を使いこなし、できれば鍼灸も実践していくことが患者さんのニーズにマッチすると思われます。幸い、日本の医師は西洋医療と漢方、鍼灸のすべてを行える世界で唯一の資格を持っています。中国や韓国では西洋医と中医(韓国では韓医)の医師免許は全く別です。米国でも東西医療を融合した医療に対する関心が高まっていますが、内科医は鍼灸師の資格を新たに取得する必要があります。最近、中国・韓国も日本の医師免許制度の利点に注目しており、将来的には両者を融合させる方向だと聞いています。
次回以降、各症状に合わせた治療について詳しく紹介するとのこと、楽しみにしたいと思います。
めまいと漢方(2008.07.16)
上記記事で紹介した浅羽宏一医師の「日常診療に漢方を使う」シリーズ2回目です。
今回は「めまいを診る」(要登録)と題して、日常よく見かけるめまい症状に対して漢方がどうアプローチしていくかを紹介しています。
めまいを主訴に総合診療科を訪れる患者さんは少なくありません。その多くは、耳鼻咽喉科などで、器質的な疾患の可能性を除外された上で治療を受けています。それでも十分な効果が得られなかったわけですから、総合診療科やかかりつけ医が再度、西洋医学的に対症療法を行っても意味がありません。
これら3方剤によって、日常見られるめまい症状の殆んどは治るとの事、それでも効果がない場合は漢方の専門家にご相談下さい。(中略)
西洋医学では、病気を解剖学的・病理学的に分類して診断し、治療法を決定します。“めまい”という症状の場合、内耳や脳神経に炎症、腫瘍などといった病理学的な異常がなければ、治療が始められません。 心療内科的なアプローチを行い、自律神経失調症として抗うつ薬や精神安定剤を処方する選択肢もありますが、ときどき症状が出現する場合、治療による食欲不振やふらつきなどの副作用の出現で、逆に患者さんの状態を悪くする心配があります。このような場合、漢方的に評価をして、漢方薬を使った方がよいと思われます。 西洋医学では、主訴から考えられる疾患を2〜3想定しながら、鑑別診断という形で診察・検査を進めていきます。これに対して漢方では、鑑別処方といって、主訴を治療するために処方される方剤を想定しながら診察を行います。「方剤」とは複数の生薬をあらかじめ調合したものを指します。
(中略)
めまいによく用いられる方剤は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう・��41)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう・��37)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう・��39)の3剤です。以下に方剤の持つイメージを列挙しますので、これを頭に置きながら漢方的な診察を行います。
補中益気湯:エネルギーの不足から立ち上がった時に血圧が下がり、ふらつくといった人(気虚)に用いる。
半夏白朮天麻湯:身体がむくんでいて、乗り物酔いのような症状の人(水毒)に用いる。
苓桂朮甘湯:イライラしていてのぼせて目が回るといった人(気逆)に用いる。
漢方の基礎知識
以上、一般の人にも理解しておいて欲しい部分を抜粋してご紹介しました。漢方における病気の分類は西洋医学とは異なり、病気だけの分類ではなく、患者さんの体質分類も含まれます。体質は次の2つに分類されます。
陽:丈夫で、胃腸が強く、活動的、代謝が活発。
陰:虚弱で胃腸が弱く、家にいることを好む、代謝は低下ぎみである。
さらに、気温の変化やストレス、微生物の侵入といった、ホメオスタシスを乱す外界の変化に対する人体の対応については、
実:変化に対して過剰に反応する。
虚:変化に対してあまり反応しない。
に分けられます。
漢方では、病気を解剖学的、あるいは病理学的に分類せず、身体全体をシステムとして捉えて、システムの異常という考え方で病気を分類します。ヒトの生命活動を支えるシステムには、自律神経・生命エネルギーシステム(気)、血液・栄養・内分泌システム(血)、水代謝・免疫システム(水)の3つがあります。これらのいずれかが歪むことにより、病気が起こります。しかも、この3つは互いに影響を及ぼし合っているので、複数のシステム異常が病気の原因となります。最近、西洋医学でも、「心腎相関」など、疾患に複数の臓器が関与しているという考え方が提唱されていますが、同じ発想といってよいでしょう。
病気の分類
システム異常によって起きる病気には、以下のようなものがあります。
自律神経・生命エネルギーシステム(気)の異常
気虚:エネルギーの不足:元気がない、やる気がない。
気逆:自律神経の過敏:いらいらする、動悸がする、異常に発汗する。
気うつ:自律神経の停滞:意欲がでない、落ち込む、胸が詰まる。
血液・栄養・内分泌システムの異常(血の異常)
血虚:貧血、栄養不良、ホルモン低下:元気が無い、疲れやすい、集中力がない。
お血:血液循環が悪い:肩が凝る、腰が痛む、足先が冷える。
免疫・水分代謝システムの異常(水の異常)
水毒:水代謝異常:浮腫む、喉が渇く、関節が痛む。
生命エネルギー(気)は、全身を上から下へ循環しています。気虚は、気が足りないこと、気逆は気が下から上に逆流すること、気うつは気の流れが停滞することです。
日本は高温多湿の気候で、皮膚からの水分蒸発が困難です。食生活では米を炊飯し、喫茶の習慣がありますので、水分の摂取過多になる傾向があります。そのため水代謝異常を来たしやすいと考えられます。
過労や暴飲暴食などの不摂生はシステムの機能を低下させますし、加齢(腎虚)はシステムの予備能力の低下をもたらします。これらの要因があると、内的、外的なストレスによるシステム異常、すなわち病気になりやすい状態になります。